前回も書いたのですが、比較的軽い事故でも、むち打ち損傷になることはあります。
でも、損保会社は、頚部が「むち打ち」しない軽い事故では、むち打ち損傷が起こるはずがないといって、比較的軽い事故だと、むち打ち損傷の治療を打ち切るように求めたり、治療費も休業損害も短期間しか認めないことがあります。もちろん、後遺障害も認められなかったりするわけです。
裁判になると、その根拠として、損保会社側から、工学鑑定が出されることがあります。車体の衝突による変形の状態から、衝突したときの速度を推定し、その加速度ではむち打ち損傷が発症する限界に達していないというのです。
でも、この工学鑑定、科学的に見えて、実は科学的ではありません。
そのことを詳しく説明しているのが、羽成守・藤村和夫著『検証むち打ち損傷-医・工・法学の総合研究-』です(→この本)。ちょっと難しくなりますが、こんな風に書いてあります。
- 低速度衝突においては、乗員挙動に影響を与えるもっとも重要な因子は、有効衝突速度から導かれる車体加速度の大小ではなく、車体の速度変化である。
- しかし、事故後の現場の状況、資料から、衝突時の速度変化を求める方法は、確立していない。それは、車種ごとの衝突速度と車体変形量の相関関係が実験により定量化されていないからである。
- むち打ち損傷の閾値(無傷限界値)論は誤りであり、乗車姿勢、衝突態様等により、たとえ低速でも、受傷の可能性がある。なお、その場合、頚部の過伸展、過屈曲がなくても、むち打ち損傷は発症する。
分かりやすく書き直せばいいのでしょうが、夜遅くなってしまったので、今日はここまでということで。